【求人広告クリエイティブ論vol.1】 アナログ組織がデータ活用をはじめるとき

はじめに

ディップの広告制作で14年。このマーケットのいろんな変化を見てきました。しかしここ2~3年の変化は特に激しい。IndeedやGoogleの影響あり、求人メディアの代替となり得る無料採用ツールあり。クライアントの選択肢は増えに増えて、リテラシーも上がる一方。僕らは「市場価値の高い制作マンになる」ことを目指してきたけど、どんなことをできる人になればいいのだろう?

さて申し遅れましたが、筆者は広告制作部の部長の佐々木と申します。ここで論理的な広告設計と人間力でクリエイティブの研鑽をしてきた広告制作部が、マーケットの変化に奮闘する姿を通じて、ディップの広告制作の仕事やスタンスを伝えていきたいと考えています。

まず、ディップでクリエイティブをやりたい、という人に誤解されがちなところから。

佐々木さん、クリエイティブやめたんですか?

効果対策の力点を、クリエイティブからデータ活用に領域を広げはじめると、「佐々木さんはクリエイティブに興味がなくなった」と現場メンバーから思われるようになりました。広告制作部はずっとクリエイティブに特化した部署でしたから、戸惑いは小さくありませんでした。クリエイティブの仕事を増やすマネジメントから、データ活用への展開を焦りすぎていたと思います。ただ幸いなことに、僕の戦略についてきてくれる人も、納得はできないまでも僕を信用してくれる素晴らしいマネージャーたちがいて、今も組織づくりを根本から見直して育成の土台を再構築し続けてくれています。

僕の仕事の原体験は「求人広告コピーライティングで、クライアントが涙を流してくれた」ことにあります。クライアントに対する僕たちの責任は「効果を出す」ことですが、その仕事を通じて言葉になっていないものを言葉にすることや感動を生み出すことは社会に与えられる価値。広告だけではないけど企業の作るものがつまらないと、よのなかはつまらなくなってしまうでしょ。目に見える人工物のほとんどは、自治体が用意してくれたものでも個人がつくったものでもなく、民間企業がつくっているもの。だから僕は揺るぎなく、広告にとってもっとも重要なのはクリエイティブだと考えています。少し大袈裟にいえば、僕らのクライアントへの責任は効果を出すことにあるが、おもしろいものを作ることは社会への責任だ、ということです。

データはクリエイティブのために”活用”するもの

広告制作部にとってデータ活用は担当外であったし、データ活用といってもターゲット設定のために応募者属性データやユーザー行動を分析してクリエイティブに生かしたのではなく、基本的には営業が担当している掲載プラン(どのエリアに、どのレベルの上位表示で、どの原稿を掲載するか)に踏み込むというのが第一歩目でした。いろんな事情で営業には見ることのできないデータを分析して掲載プランをたてたら、売上も効果も驚くほどあっさり上がる経験があったから。まずそこで実績を上げられる確信がありました。上位表示のプランを買ってもらえれば売上もあがるし、クライアントにとっては費用対効果も上がるし、クリエイティブにとっては魂を込めてつくった広告がより多くの人に見られるようになる。いいことしかない。

でも「なぜそれをクリエイティブの部署がやるの?」ということは誰も納得できなかったし、いまも半数以上のメンバーが納得していないかもしれない。でも「多くの人に見られなければ、大きな成果はあげられない」から、ここを避けていてはクリエイティブの勝負がそもそも始められないのです。

そうして現場の感情がついてこないまま突き進めていくなかで、救いとなってくれたのが、クリエイターとして部内人気No.1のマネージャーの存在でした。彼は自他ともに認める”数字がニガテ”なタイプのクリエイターでしたが、いっしょに仕事を進めていくなかで「データはクリエイティブプランの説得力を持たせるために、とても重要どころか、とても使えるものだ」と気づき、メンバーに語ってくれたのです。それがどこまで現場メンバーに響いたかわかりませんが、彼がそう語ってくれたのが、僕にとって救いであり、支えにもなりました。もともとデータ活用に強い興味を持ってくれてた人やデータ解析を専業にしてくれたりするメンバーはもちろん戦略の中心にいますが、彼のような”数字がニガテ”なメンバーが変化するというのは、既存メンバーがデータ活用を自分ごととして考えるのに重要なトピックだったのではないかと思います。

データの根拠もなくクリエイティブをつくるのはダメ?

データ活用が徐々に浸透していくと、データがないと不安になってしまったり、提案の根拠がデータ一辺倒になってしまうことがあります。でも忘れてはならないのは、データはあくまでもデータ化されたものしか見られないということ。僕らが扱っているサイトデータはそこまで多くの情報を得られていないんですよね。たとえばユーザーの応募までの数値は見られても、「どんな人が採用されて、何年勤めて、どんな活躍をしてるのか」は今のところほとんどわかっていません。クライアントの事業成長や成功のための採用課題解決というのは、応募した人が採用されて活躍して利益を生むところまでを考えなきゃならないのです。

その課題を解決するには、やっぱりこれまでと同じクリエイティブの方法論が大事。クライアントのことをよく知って、採用競合との優位性を分析し、適切なターゲットを設定して、ターゲットインサイトを想定し、そしてターゲットの行動変容を起こすクリエイティブをつくる。
クリエイティブを信頼してもらえるまでにいろんなステップが必要ですが、タイミングは虎視眈々と狙っていくしかありません。

データを根拠にした対策にクリエイティブは必要ないのか

データ分析は大きな塊から段階的にドリルダウンしていくのですが、はじめはたいてい効果不良の要因が掲載案件の条件であることに気づきます。「不人気職種」だとか「時給で負けてる」「短期OK案件にとられてる」「学生応募の少ないエリアだ」など。この場合の対策は、掲載案件の選定方法を変える、条件交渉する、原稿を入れ替える、ということになります。クリエイティブ以前の対策ばかりですが、実際に応募数はこれで格段に変化します。当然ここでクリエイティブは必ずしも必要ありません。でも大事なのは、最短距離で顧客の信頼を得ることで、クリエイティブという手段を使うことではない。クライアントの魅力を理解しているクリエイターほど、禁欲的なスタンスが必要かもしれません。

もちろんクライアントの採用課題は応募数増では解決しません。でもクライアントの担当者が追っている目標や求人媒体への評価の大部分は応募数です。そこにいきなり「御社の事業成長のための採用課題は…」と提案しても、クライアントの担当者からすると「それは分かってるんですけど、検証できないし…」とか、最悪「こちらからお願いしている応募数目標も達成してないのに、他の評価軸にしようって都合よすぎません?」と思われても仕方ない。
だから結局、クライアント担当者の要望=応募数を増やすことを通じて信頼関係を築きながら、何かにつけて情報収集を積み重ね、よりよいクリエイティブをつくる準備を進める。そして信頼関係が醸成された頃に、担当者を唸らせ味方につけるクリエイティブをドドーンとぶつけてみる。そういう作戦を描いておくことが重要だと考えています。

応募数向上対策をやってよかったこと

応募数向上をいったんのKPIにおいてよかったのは、クライアントからの信頼を得られただけではなく、社内の営業からの信頼も得られたことです。営業がやっていた掲載プランの領域まで対策の手を広げたことで、営業が日々クライアントからどれだけ応募数や応募単価について口酸っぱく言われているか理解できましたし、そこに一緒に向きあって解決していくことができました。広告制作部が「クリエイティブ対策をしてくれる人たち」から「顧客課題を一緒に解決してくれる人たち」に変わったんじゃないかと思います。

これまでも繰り返してきたことですが、広告制作部への期待値が変わると、とたんに依頼の内容も変わってきます。「原稿の相談」から「応募単価を下げるための相談」など、手段ベースではなく課題ベースの相談がくるようになりました。そしてとても嬉しいことに、求人広告にとどまらない大型のクリエイティブ案件の相談もくるようになったのです。それに加えて、外部パートナー会社からも協業のオファーが来たりもしています。ここまでくるのに、だいたい2年半ほどかかりました。

クリエイティブの評価はデータで検証されなければならないのか

ここまで、クリエイティブとデータ活用は別物として語ってました。もっと進んだデータ活用をしている人から見たら「ずいぶん遅れているなぁ」と思われたかもしれませんが、僕らに強みのある非正規求人広告・非正規採用マーケットは、事実、遅れていると思います。なにせ分析したくてもデータ化されていないものが多いのですから。クライアントの社内で活躍している人が、どんな人で、どんな経路で、何を見てきたのか、ほとんどの企業は把握できていません。

でもそれでクリエイティブの評価はデータで検証できないものだと言ってしまうのは、あまりに不誠実。時代は変わっていくし、変えていかなきゃ。動画やWEBサイトの評価検証方法もどんどん細かくなって、成果がみえるように進化していますし。

クリエイティブの評価をこれからデータで検証していく責任を、僕らは担っているのです。

author

佐々木 太洋

人材サービス事業本部クリエイティブ統括部広告制作部長。2006年12月入社。広告制作部のビジョン・ミッション・戦略設計を企てながら、約70名の制作部の指揮を執る。かなりスリム。

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