1200社以上と共創 ディップが育てている広く緩やかなDXエコシステム

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進藤圭
ディップ株式会社 執行役員 兼 商品開発本部副本部長 ▼詳細

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dip people編集部
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ディップでは「中期経営戦略 dip2025」において、DXを事業の柱として掲げています。もともと人材サービス事業会社だったディップが、新たにDX事業を開始できた裏側には、以前より作り上げてきたエコシステムの存在があります。今回はディップのDXを支えるエコシステムを作り上げてきた進藤に話を聞きました。

ディップが構想する3つのエコシステム

――DXエコシステムを、どのように構想していたのかについて教えてください。

前提として、DXをとりまくエコシステムがいくつかありまして、DXを始める前に考えていたエコシステムの話からしましょう。

データ・テクノロジー・人材、この3つのエコシステムが重要だと考えていました。

でも、社内だけじゃまず無理だということに気づいたんですよ。なぜかというと、まずディップ自体は当時人材系の会社だったからです。人材やHRのテクノロジーには知見があるけど、DXテクノロジーの人材とかにはアクセスがないということに気づきました。

第1フェーズとしてメディアを作りリサーチしていく

そのデータ・テクノロジー・人材へのアクセスのルートを探るために、一番最初に始めたエコシステムがAINOWというメディアです。

これはどういう資源が社会にあるのか、候補を調べていくために作ったメディアで、スタートアップを収集したり、オープンデータを収集したり、人材教育の教育機関を収集したりインタビューしたり、あるいはそういうエコシステムを作ろうとしている企業の取材をたくさんしています。

このAINOWが第1フェーズでした。

取材結果を活かし、エコシステムを構築していく

第2フェーズがこのバブル(下図)です。AINOWで取材先を調べて資源を確認していくと、スタートアップがたくさんあるとまず分かってきました。もう1つは、私たちの求めるデータやテクノロジーもスタートアップに結構あるということが分かってきました。
そして人材もスタートアップに結構いるなということが分かりました。

ディップの構築しているエコシステム

一番最初にやったのがAIなどの自動化技術のスタートアップを対象としたAIアクセラレーターです。スタートアップは結構いるから、この人たちと一緒に働いて、ディップの力を使って成長してもらう仕組みを作れば、スタートアップのデータ・テクノロジー・人材など、自社にはない資源のプールが作れるんじゃないかという発想です。

これはAIスタートアップの学校のような位置づけで始めたもので、3ヶ月に1回開催しており、一回で10社から5社ぐらい採択してきました。これを3年半ぐらい続けて100社まで育ちましたね。

その外側にスタートアップという部分があるんですけど、これはAIとかDXとかのテクノロジーというテーマに限らず、技術を持っていたり将来DXに関わりそうなスタートアップも当然たくさんいるなと思い、スタートアップタイムズというメディアを作って、通算で1200~1300社くらい取材しながらエコシステム化していきました。

次のステップがこのスタートアップたちの中から我々がゴリゴリに一緒に取り組みたいテクノロジーや人材を持っている企業に対する投資活動です。

それと並行したもう1つの取り組みとして、データサイエンスインターンを行っています。人材はスタートアップと大学にたくさん偏在していることが分かったので、大学生の方も取り込んでエコシステム化できないかということで実施してきました。

これでデータとテクノロジーと人をぐるぐる回すエコシステムを作るというのがディップの取り組みですね。

▼参考リンク

リモートインターン内、データサイエンスコース

DXに必要不可欠な「データ・テクノロジー・人材」

――このエコシステムを構築する上でデータ・テクノロジー・人材に分けてフォーカスしたとのことですが、このように分けた経緯を教えてください。

もともとDXをやろうと考え始めたのが2016年ぐらいでした。そのときやっていたRPAをさらに推進させるためには何が必要かと考えたときに、この三つの要素(データ・テクノロジー・人材)に辿り着きました。

まずはじめに、自動化をやるためにはデータが流れてないといけませんでした。
例えば、RPAをやろうとしてもFAXが生きてる状態だと無理だということです。つまりデータを持っている、あるいはデータを流す技術がある会社と組まないと無理だなと感じました。例えば、バイトルのCMの効果を予測するとして、うちの社内のデータだけだと不十分で、天気だったりとか外で起きたものごとのデータがないと分からないことが多かったし、それを取得する仕組みがまず必要だという結論に至りました。

もう1つは、社内にテクノロジーが足りてなかったんです。これはどこの大企業でも陥りがちなことだと思います。
テクノロジーが大企業内部から生まれるのはまれで、外部のスタートアップ企業からたくさん生まれてきます。だからスタートアップ企業とのアクセスを持ちながら組み合わせて自社で自動化していかないと、新しい技術に取り組む事は難しくなってきます。これが3つ目の人材の話にもつながってきます。

RPAや自動化は、最初私とインターンでやっていたのですが、やはりそれだと限界がありました。うちは営業が多い会社なのでRPAや自動化をできる人が全然いなかった。でも、スタートアップと共創したり、DXを進めて行くにはプロパーで専門的なことまで分かる人がいる状態を作る必要があると感じ、人を集めようと考えました。

エコシステムからディップの内部へ。エコシステムのデータ・テクノロジー・人材と一緒に働く

柔軟にかたちを変えながらエコシステムを活かす

――このエコシステムはディップに対してどのようなメリットをもたらしていますか。

商品、技術、人がディップにもたらされているのがメリットですね。

AIアクセラレーターの参加企業が、今はディップの投資先になって我々の商品になるケースがあります。例えばDX事業の主力商品のひとつ「コボット」シリーズのほとんどは投資先との共同開発商品です。

そのほかにも、エコシステムとしてワークしてるものの例としては、例えばAIアクセラレーターの採択企業の中で投資先のとある会社が技術を提供してくれるパターンもあります。社内DXとしてGAZOという、AIが画像を自動生成するサービスや、GENKOという、AIが求人原稿を自動生成するサービスを作ってくれています。これは社内DXにテクノロジーを提供してくれている感じですね。

あとは投資先ではありませんが、AIアクセラレーターの採択企業が、バイトルのメルマガの最適化のための技術を提供してくれていたり、スタートアップタイムズの取材企業がDX事業の商品を共同開発したりしています。投資しているかどうかにかかわらず、たくさんの取り組みをスタートアップと行っています。

人材面ではデータサイエンスインターンを経験して、うちの社員になるというパターンの人材採用にも成功しています。

多様性を維持するためにインターンという方策を選択

――技術や人材の獲得のためには、インターン獲得だけだなく、大学そのものに働きかける方法もあると思います。共同研究や寄附講座などをディップがやっていない理由は何でしょうか?

1つは一般の会社がやるには、大学との協業って結構障壁が高いんです。意思決定には慎重ですし、研究室は研究としてやりたいことがあるので、私たち企業と大学では話が合わないことがあります。こうした企業と大学との協業の難しさという考え方が1つあります。

もう1個は、ある大学と組むとその大学に閉じてしまうというのがあります。例えば東大と組むと京大と組みにくくなるという感じです。研究室も一緒で、ある研究室と組むと、周囲の研究室とは組みにくくなります。

企業としてどこかと組むと利害関係ができてしまって、幅広いつながりを構築しにくくなるので、共同研究や寄附講座などは展開していません。

その代わり、インターンという形で、多様な大学、多様な研究室、多様な技術を取り込むということをやってます。

そのおかげでいろんな大学とか、いろんな学校の先生に取材もできるし、インターンもどこか特定の大学に手厚く内定を出すとかやらなくていいですからね。

――この方法で、どれくらいの人材を獲得できているのですか。

インターンはエントリーでいうと1000件ぐらい来て、実際のリモートのインターンに参加した人は200人以上、そのプログラムを修了した人はその1割ぐらい、新卒採用できたのは5名ぐらいです。

データサイエンスインターンによる学生の獲得

エコシステム内でディップが実現するwin-winの関係性

――ディップがエコシステムからデータ、テクノロジー、人材を取り込むというだけでなく、対価を提供する側面もあると思うのですが、具体的には何を対価として提供しているのですか?

「営業力」「資金」「発注」「経営支援」がその対価です。

投資先は「営業力」「資金」「発注」「経営支援」全てのメリットが受け取れます。ディップからの発注ももらえるし、売ってもらえるし、ノウハウももらえるし資金提供もしてもらえるし、PRもしてもらえるというのがこの25社です。

特に強みになっているのは「営業力」です。やはり、投資を受けてる人たちはディップの営業力に期待してるし、このアクセラレーターに入ってくる人たちは、ディップの営業ノウハウを知りたくて入ってくるというところはあります。

その周りのAIアクセラレーター参加企業100社に対しては、「発注」「経営支援」がメインになります。投資はありませんが、経営ノウハウと、ディップのネットワークとノウハウを生かした商品開発、営業支援、PR支援、採用支援、ディップへの営業支援、それからディップ以外の大企業やVCからの資金調達のアレンジ…と基本なんでもやってスタートアップとして成長する支援をしています。

一番外側にいる1200社のスタートアップ企業は「経営支援」がメイン。ディップの取材を受けることでPRの機会を得たり、大企業やVCを紹介したり、壁打ち相手になることで経営ノウハウを提供しています。

エコシステムに対する対価

ディップの「広く、緩やかなつながりのエコシステム」が持つメリット

――ディップのエコシステムの特徴などはありますか。

特徴は「ゆるい」ということです。投資は基本少額投資なんです。だから、経営をコントロールしたいという思いはなくて、技術とか商品とか人へのアクセスを確保したいという考え方が根底にあります。

人材面でも、「必ず〇〇大学、研究室」「必ずわが社に就職せよ」とは言わない。幅広くリモートでインターンを体験してもらって、その中から就業体験をしてもらって、ディップと合う人に就職してもらう。ほとんどのインターンはディップから卒業して、いわゆる人気企業に就職していきますが、そこから企業同士の連携に繋がったり、副業として発注をしたり、社会を大きなタレントプールとみなして行こうと考えています。

「ゆるい」の反対が大企業では多いわけですが、何でも大企業の支配が増えれば増えるほどスタートアップや人材は独自性を失うから技術が丸くなっていきます。そして人も丸くなっていく。そうなると社内と変わらなくなるから、あんまりエコシステムを作る意味がなくなってしまいます。

それだったら、少額の投資、あるいはアクセラレーター、インターンみたいなゆるい繋がり方を維持しながら、我々が技術に自由にアクセス、人に自由にアクセスすることで、なおかつスタートアップや人材はディップの資源をうまく利用し、独自性を担保しつつ、尖った技術を自分たちで追求していく。

この両取りをしているのがディップのエコシステムの大きな特徴かなと思います。

――ディップのエコシステム全体として緩やかなつながりでできているという特徴があるのですね。

そうですね。特定の誰かにこだわりすぎると、どこかのエコシステムと繋がらなくなるというのがやはりデメリットとしてあるので、この広いエコシステムを作っているのです。

ディップはどこの派閥にも属していないエコシステムを作ってきたし、今後もこのスタンスでエコシステムを拡大していきたいと考えています。

――ありがとうございました!

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進藤圭

ディップ株式会社 執行役員 兼 商品開発本部副本部長 株式会社GAUSS取締役、株式会社JollyGood取締役 早稲田大学を7年かけ卒業後、ディップに新卒入社。営業職、ディレクター職を経て、開始後3年で15億円の売上に成長した看護師人材紹介「ナースではたらこ」など、40件以上のサービス企画に参加。直近では、AIアクセラレーターやDigital labor force「コボット」を提供するAI・RPA事業がある。書籍「いちばんやさしいRPAの教本」、「いちばんやさしいDXの教本」を執筆している。

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『dip people』の企画・運用・制作を行い、ディップの情報を社外へ発信しています。