導入わずか3カ月で利用率100パーセントへ導いたSlack利用浸透術!形骸化させない全社システム導入の極意

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dip people編集部
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2020年、ディップでは約3ヶ月で2500人規模のSlack全社導入および利用浸透行い、私はそのプロジェクトマネージャーを担当しました。全社員に「いかにシステムを使ってもらうか」を重視した、形骸化させないシステム導入の極意について記載したいと思います。

システムを導入しても使われなかったら意味がない

2018年の日経コンピュータの調査では「システム導入の5割は失敗に終わる」と言われています。

1745件に上るシステム導入/刷新プロジェクトのうち、約半数の47.2%が「失敗」。日経コンピュータが実施した独自調査から、コスト・納期・満足度の3条件を満たすプロジェクトは多くない残念な姿が浮き彫りになった。

出典:2018.02.27 日経 xTECH/日経コンピュータ

システム開発プロジェクトの5割が失敗、1700件を独自分析

システム部門がシステムを導入し、利用研修も行い、でも社員になかなか使われず形骸化してしまう。コストと納期は守れたとしても、社員の満足度が上がらなければそれは「失敗」とされます。一部の機能しか使われなかったり、システムを導入した結果、逆に手間が増えてしまったりしては意味がないですよね。

ディップでSlackを導入した際は「いかに便利さを実感して使ってもらうか」システム利用浸透を設計しました。

『利用研修をすればユーザーは使うだろう』という幻想

完全に導入を行う側の幻想です。研修を手厚く行ったとしても、新しいシステムに順応できない層はかならずいます。
研修はした!ついてこないほうが悪い!と放り投げることもできますが、それではシステムはずっと使われないままになってしまい、成果に繋がりません。

ディップではもともとメインの連絡ツールとしてGoogle Workspaceが使われており、そこにSlackを導入することになったため、GmailやHangoutからSlackへの移行をしなくてはなりませんでした。

PMを担当した体感ですが、バックオフィスの4割くらいは新しいシステムには慎重な姿勢を示しました。「明日からSlackに移管します」ということはなく、「慎重に考えたいからもう少し待ってほしい」「メールからSlackに移したら逆に不便になるのではないか」「移管したいが移管の仕方がわからない」などの声をたくさん聞きました。

そう言われてしまうのは、ユーザーは便利なのかどうかわからないものを積極的に利用する気にならないからです。そしてその便利さは、研修ではほとんど伝えられず、使ってみないと実感できません。

ディップでは2020年10月中旬にSlack Enterprise Gridを全社契約しました。
そこから1ヶ月半準備期間を経て2020年12月1日に全社員に利用研修を行い、さらに1ヶ月半をかけて利用浸透を行っています。合計3ヶ月かけて利用浸透を行い利用率は100%(休職者等を除く)となりました。これを例にシステム利用浸透のステップを説明します。

Slack導入スケジュール

失敗しない全社システム利用浸透の4ステップ

①全社導入決定前に、事前に小規模で試しに利用し、本当にシステムが便利かどうかを検証する
②全社導入決定後は、各部門に「システムを使ったことがあり、わからないとき聞ける人」を設定して事前利用を開始する
③全社利用開始当日に、経営陣から「このシステムを使うとこんなに良いことがある。全社で利用すること」と、理由付きでメッセージを出してもらう
④全社導入後は、業務をヒアリングし、他部署の活用事例を明示して利用を促す

それぞれ詳しく見ていきましょう。

ステップ1:全社導入決定前に、事前に小規模で試しに利用し、本当にシステムが便利かどうかを検証する

まず、Slackはもともとディップの一部の部門でとても積極的に活用されていました。
システム開発をする人にとってはなくてはならない存在でしたし、営業部門や人事部門でも限定的に利用されていました。それぞれの部門で異なるワークスペースを利用するという状況で、まったく全社最適ではありませんでしたが、Slackを使えばコミュニケーションはうまくいく、ということが一部の部門では実感されていました。

もし現時点でどの部署でも使われていないシステムを導入するときは、一部の部門で限定的に使ってもらい、本当に会社にとってこのシステムが役に立つのか?を検証する事が必要です。

別のプロジェクトの話ですが、ジョブカン経費精算の新規導入を行ったときは、まず3部門限定でICカード経費精算が便利に使えるかどうか検証し、満足度がとても高かったので全社導入を決定したという経緯があります。

ひとまず、いきなり全社導入!というのはやめましょう。
小規模で試しに利用してみて、全社導入しても大丈夫かどうか確認することが必要です。

ステップ2:全社導入決定後は、各部門に「システムを使ったことがあり、わからないとき聞ける人」を設定して事前利用を開始する

前段の小規模検証が終わったら全社導入の準備に入るわけですが、その準備期間に「Slackアンバサダー」を選定し、事前研修を行い先行利用を開始しました。

アンバサダーの役割と作業ボリューム

アンバサダー(=大使)と呼ばれる人には、自部署の業務を理解している一般社員の方のうち、システム利用に積極的である人が最適です。そういう方々を部門から選出してもらい、事前にまた、一般社員向けよりも詳しい内容のSlack利用研修を行いました。そして、自部署に活用するアイデアを出してもらい、自部門へのシステム利用浸透を行うというミッションを担っていただきました。

情報システム部門では、各部門がどのような業務をしているかまでは把握ができません。
現場でシステム活用ができるかどうかは現場の方にかかっていますので、現場目線を持っている方にプロジェクトに参加してもらうことは非常に重要になります。

一般社員全員に一気に利用させようとするのではなく、アンバサダーにツールを先行利用してもらい、現場目線で活用を考えていただくことができます。そして、一般社員も身近なアンバサダーに質問をすることができます。アンバサダー同士も情報共有ができ、他部門のよい取り組みを自部署に持ち帰ることができるので良いことづくめです。

ステップ3:全社利用開始当日に、経営陣から「このシステムを使うとこんなに良いことがある。全社で利用すること」と、理由付きでメッセージを出してもらう

Slackを導入したときは、代表取締役COO (最高執行責任者)兼 CIO志立がTOPのプロジェクトだったので、事前の社内SNSでの告知から、アンバサダー研修、全社研修時にメッセージを発信してもらいました。

Slackを使えばこんなにいいことが起こる、みんな余計な事務連絡をしなくてよくなり、本業に集中して成果を上げやすい環境にすることができる。だからみんなSlackを使おう。全社員で使わないと意味がない。わからないことがあれば事務局が全力でサポートをするし、アンバサダーが頼りになる、といったメッセージを送り続けました。

ステップ2とステップ3で、8割くらいは全社利用をカバーすることができます。

ステップ4:全社導入後は、業務をヒアリングし、他部署の活用事例を明示して利用を促す

この段階になってくると、残りの2割にどうシステムを使ってもらうかということが重要になります。システム利用に積極的でない、どうしたらいいかわからない、業務を変えたくない…様々な理由で使わない方はいます。

Slackはコミュニケーションツールであったので、利用を開始していた8割の方々から「あの部門からまだメールで連絡がくる」「この部署のこの業務もはやくSlackに移行してほしい」といった声が聞こえてきました。そういった声を拾い、2割の部門には直接アプローチをしていきます。

2割の方々は、新しいシステムを利用して自分に不利益が起こるのではないかと不安を抱いています。ここで活きてくるのが8割のすでに利用を開始している部門の活用事例です。

例えば、営業部門から問い合わせを受けるバックオフィス部門がかたくなに「今まで通りメールで連絡して」という場合、営業はSlackもメールも使わねばならず、不利益が生まれます。コミュニケーションの効率が上がらないので、PMとしてはその部門にもなんとかSlackを使ってほしいのです。

誰が相手のどんな業務か、どんなシステムやツールが関係しているかをまずヒアリングします。「営業相手の問い合わせ対応業務」であれば、「全社員相手の情報システム部の問い合わせ受付のSlack事例」を、「機密情報が含まれる内容」であれば、「法務のSlackプライベート問い合わせ事例」を、成果付きで紹介します。

類似事例を紹介し利用イメージを持ってもらうため実際に使用した画像

何より、2割の方々に起こる良いことをきちんと説明できることが大切です。あなたの業務が効率化されます、ということを伝えないと使ってもらえません。社内の他の部署の事例があると説明しやすいです。

ディップのSlack利用浸透の結果

まず、導入月に社員の90%がアクティブユーザーになりました。社内のやり取りはメールとSlackを並行利用する期間を設けましたが、結果月に800万件のメールが減少し、3ヶ月経った頃には利用率100%(休職者等を除く)となりました。

Slackアンバサダーの表彰なども実施し、がんばった分だけ報われ、インセンティブが支払われる仕組みを導入しています。
また、Slackと同時にBoxやZscalerなども導入されたのですが、全社アンケートの結果全体の90%が「効率化された」と回答しました。

ディップのSlack導入を例に取り、形骸化させない全社システム導入の極意をご説明しました。少しでもシステム導入のご担当の方の助けになれたら幸いです。

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『dip people』の企画・運用・制作を行い、ディップの情報を社外へ発信しています。