みんなが主役の組織をつくりたい。そのために始めた1on1。
2011年に新卒入社し、同期内では最速で部長職へと昇格した渡辺仁人(まさと)。業績のふるわなかった組織をいくつも立て直してきた彼の手腕の根っこには、メンバー一人ひとりと向き合う”1on1″の思想があったという。その詳細を聞いてみた。
2年目で結婚。3年目で父親に。とにかくガムシャラだった新人時代。
高橋:渡辺さんは2011年入社ですが、そもそもなぜディップに?
渡辺:学生時代、バーテンダーのバイトをしていて、お客さまの喜ぶ顔を見られるのがとても楽しかったんです。それで、将来は経営者になり、海外のプールバーのような、年齢や立場など関係なくお客さま同士がコミュニケーションを取れるお店を出したいなと思いました。でも経営者になる前に、もっと「世間を知ろう」と思ったんです。社会に出て、自分の目でいろんな人を見て、知見を広げて、それから自分のお店を開こうと。そのために、いろんな業種や経営層の方とも出会える人材業界がいいのではないかと思いました。
高橋:そこでディップに出会ったと。
渡辺:はい。ちなみに僕は本来であれば2009年に大学を卒業する年なのですが、1年半ほどワーキングホリデーに行っていたこともあり、日本に戻り就活を始めた頃には就職氷河期になっていました。さらにディップの最終面接を受けたその日に東日本大震災があって…。かなり波乱万丈なスタートでしたね。
高橋:おぉ…それは大変でしたね。さらに入社2年目に結婚をされたと伺いました。
渡辺:25歳で結婚し、26歳で子どもが生まれました。それもあって新卒の頃は死に物狂いで仕事を頑張りましたね。目標を達成して上司を納得させること、そして家にお金を入れること。入社当時はそれだけが自分の目標になっていました。
高橋:当初から売れていたんですか?
渡辺:いや、ぜんぜん。事業部内に同期が70~80人くらいいて、ずっとワースト5くらいでした(笑)
高橋:そこからどのような変化を?
渡辺:まずはとにかく行動量を頑張りました。何が正解かも分からず、1日100件飛び込み営業をしたり、台風の日もずぶ濡れになりながら営業したり(笑)でもガッツと行動力はあったものの、「営業のコツ」みたいなものはつかめず、成果は出せずにいました。
そんな折、1年目の終わりごろに異動になって、上司が変わりました。その上司が「何が良いか、悪いか」を徹底的に指導してくださるタイプの方で。それからはレコーダーを毎日ポケットに入れ、営業に同行いただいた際は上司のトークを録音して、行き帰りの電車で聞き直して、トークを書き出していく、みたいなことをやっていましたね。上司とまったく同じトークができるようになったら売れるだろうと思って(笑)トークだけじゃなく、パワポのプレゼン資料や、お礼メールの書き方、文章の言葉ひとつひとつまで、とにかくその上司のマネをするようになりました。あとは当時ランキングで1位だった先輩をごはんに誘い、「僕がごちそうするので営業について教えてください!」とお願いしたり。そこからは気持ちもだいぶ前向きになり、成果も出るようになりましたね。
高橋:「基本を徹底する」という考えは昔からあったんですか?
渡辺:もともと空手、合気道、剣道などの武道をやっていたので、「守破離(しゅはり)」という考えは自然と身についていました。まずは型を徹底し、モノマネをする。それが僕のベースになっています。部長職になった今も、他の部長の報告書にはすべて目を通し、それを自分なりのフォーマットにアレンジし、少しでも早く部長としての仕事に慣れるよう工夫しています。
7年目に課長へ昇格。メンバーの5~6割が「将来が不安」という組織へ。そこで出会った1on1。
高橋:課長に昇格されたのが2017年ですよね。
渡辺:新宿の営業部に異動し、そこで初めて課長になりました。
高橋:昇格してからはいかがでしたか?
渡辺:業績が低迷している部署だったのですが、メンバーが9人いて、その内5~6割が将来が不安というかなりヘビーな状況でした(笑)
高橋:それは大変ですね…。どのように立て直しを?
渡辺:とにかくまずは「コミュニケーションの場をつくろう」と思いました。というのも、当時は上司とメンバーのコミュニケーションの場というと、昔ながらの飲みの席や、顧客訪問の同行時、また日々の進捗管理や指導の場面がメインでした。でもそんな状態で、メンバーがどんな夢を持っているのか、どんなモチベーションで働いているのかも知らずに、マネジメントなんてできるのかなという疑問があって。会社が定めている業績目標を達成するのはもちろん、それと個々のメンバーのやりたいこと、夢、目標をうまく連動化したいというのは、僕がメンバー時代から抱いていた想いでした。そんなとき、たまたま本屋で出会ったのが1on1に関する本でした。
高橋:なるほど。
渡辺:本を読んで、「まさにこれが自分の目指しているものだ!」と感じました。それからは、月に1回1時間、メンバーと1対1のミーティングの時間をつくり、1on1をするようになりました。この1時間は、「営業成績はどうか」「このクライアントはどうなっているか」といった日々の営業活動の話ではなく、「メンバーの成長意欲を促す」ための時間です。具体的には3つのテーマで定性目標を立て、それを定量目標に落とし込み、そのためにやるべきことを考えてもらい、それができたか、できてないかを毎月振り返り、メンバーの夢のために何が必要かを目線合わせしていく、ということを行っています。そういった時間をつくってあげることで、仕事以外でも上司とのコミュニケーションがちゃんとはかれるようになり、メンバーが気づいていなかった潜在的な課題も掘り下げられるようになりました。
高橋:今でこそ全社的に「ツキイチ(月1回の上司と部下の1on1)」を導入していますが、その前からやられていたのですね。
渡辺:メンバーがどんな夢や想いを持っているのかも分からない状態でマネジメントはできないし、ダイバーシティの重要性が問われ、時短勤務、リモート勤務などが導入される中、メンバーの考え方は各々違いますからね。1on1でお互いに納得感のあるゴールを決め、年間目標、月間目標を定めていくというのは、とても有効だと感じます。当時は「辞めたいなら辞めていいよ。その代わり、ちゃんとした職務経歴書が書けるように、それを目標に一緒に実績をつくってからにしようぜ」という話をしたり(笑)「職務経歴書に書けるくらいになるには、半年後これくらいの成果を出さなきゃいけないよね」「じゃあ月ごとにはここまで伸ばさなきゃいけないよね」「マーケットシェアはこれくらい増やさなきゃいけないよね」という会話をし、そのメンバーに合わせた目標を一緒に考えていきましたね。ちなみに、そのメンバーは辞めずに、今も頑張ってくれています(笑)
高橋:それはよかった(笑)その後、つくば営業所に異動されていますよね。
渡辺:つくばに異動した際も、業績の低迷やメンバーへ指標の再構成を行うため、同様に一人ひとりと1on1をやり、なぜこの会社に入ったのか、どういう想いで今仕事をしているのか、ギャップはないか、辞めたいと思うような理由はないかなどを聞いて、一人ひとりに合ったマネジメントをしていきました。
結果、1年後には全社で2つの部署しか選ばれなかった「優秀組織賞」に選んでいただけるほどの成果を出すことができ、報奨旅行でみんなでハワイに行くことができました。
高橋:1年でそこまで生まれ変わったのですね。すごい。
課長がビジョンを語ることが重要。「経営」の感覚で仕事をする。
高橋:1on1以外に、取り組んだことはありますか?
渡辺:大前提として、課長がビジョンを語ることは大事だと思っています。会社の中の「課」というひとつの組織ではありますが、その組織長としてはその組織を「経営」する感覚で仕事をしないといけないと思っていて。ビジョンを語るのはもちろん、それを実現するための戦略を描き、それらをメンバー一人ひとりの具体的な目標・行動へと落とし込むことが大事だと思っています。僕が課長をやっていた頃も、毎月15ページほどのプレゼン資料をつくり、改めて自分たちが何を目指し、今どこにいて、だから何をしなきゃいけないのか、ということを毎月メンバーを集めて振り返っていましたね。
高橋:ちなみにどのような目標を立てていたのですか?
渡辺:新宿の頃はまだまだビジョンを語る力も弱く、まずはメンバーを安定的に稼がせてあげる、そして仕事を楽しくしてあげるということを目標にしていました。
つくばに異動してからは、「つくば課を部に引き上げる、全員でハワイに行く。そのために全社でNo.1になる」ということを掲げました。異動当初は散々な成績だったので、メンバーからは荒唐無稽だと笑われましたが(笑)でも全員が向かえる共通のゴールができたことで、今まで不安視していた、隠れていたメンバーが「あと1本電話しよう」「いけるぞ」と変わっていくんですよ。そういった様子を見られたときはやっぱりうれしかったですね。あとはメンバーが自走できるスキル・体制づくり、課長になんでも言える文化をつくる、全員の年収を上げるということも掲げました。その結果、先ほどもお伝えしたとおり1年後に無事ハワイに行くことができました。
高橋:他にはどのような取り組みを?
渡辺:「課長になんでも言える文化をつくる」とも関連しますが、僕に文句を言ってくるメンバーから役職をつけるようにしました。文句を言ってくるということは、少なくとも今やっていることに無関心ではなく、課題感を持っているということだし、課長にケンカを売ってくるくらいだから胆力はあるだろうと(笑)当時の組織は課長の僕以外は全員同じ職級で、横並びの組織だったのですが、意志のあるメンバーを引っぱり上げ、役割を与え、推進役に任命していました。今はそのメンバーたちがユニットリーダーへと昇格し、その他のメンバーを引っぱってくれています。
みんなが主役の組織をつくりたい。
高橋:さまざまな手段がある中で、メンバーとのコミュニケーション、1on1に注目したのはなぜだったんでしょう?
渡辺:僕がメンバーだった頃は、売れるメンバーと売れないメンバーの差にかなりの開きがありました。そして売れるメンバーの営業目標額はどんどん増え、負荷がかかっていく。
でも僕が「守破離」を大事にしていたように、仕事には一定の「型」があり、それを学べばみんなある程度できるようになることは分かっていたし、それに追加してそれぞれの夢や目標と目の前の仕事をつなげてあげれば、みんなもっと成果が出せるんじゃないかと。そのために、一人ひとりと向き合う時間、機会をつくりたいなという思いがありました。
高橋:なるほど。
渡辺:仕事の実体験から自ら学びを得るのって、なかなか難しいと思っていて。だからこそ1on1の中で1ヵ月ごとに小さい山(目標)をつくってあげて、学びを得る時間をつくってあげれば、みんなの学びももっと増えるだろうと。あとはメンバーの情熱、夢を応援したい、解き放ちたいという気持ちでしたね。
僕は某海賊のマンガが好きなので(笑)みんながみんな主役であってほしいし、みんなが主役の組織をつくりたいんです。
高橋:すばらしい。2020年6月に部長職へ昇格されましたが、今後の展望は?
渡辺:メンバーとの1on1のやり方、マネジメントの仕方など、自分が課長として学んだこと、実践したことを課長一人ひとりとの1on1を通して教えていきたいです。まだ部長としては新米なので、そこはこれから取り組んでいきます。
あとはワークプレイスの柔軟性というか、オフィスがなくても高い生産性を維持できる組織をつくっていきたいです。自分はあまりワークライフバランスというタイプではないですが(笑)それを望むメンバーは一定数いて、そういうメンバーが高い生産性を発揮するためには、業務のDX化だったり、リモート営業の手法を進めていかないと実現できないので。幸いにも僕が担当している東関東営業部のお客さまは郊外のお客さまが多いので、それがないと生産性も上がりません。だからこそチャレンジのしがいがあるなと思っています。