データを武器に顧客と向き合う。広告制作部のアナリストとは。
広告制作部に所属しているデータアナリストは、『バイトル』など自社媒体のデータ集計・分析を行い、時に数千件に及ぶ広告運用の方向性を決めていく。関西制作課の桑田知佳にそのやりがいと大切にしていることを聞いた。
5000件の広告運用、応募予測。データ分析はチーム戦
馬場:桑田さんとは同じ関西制作課で働いていますが、改めてじっくりお話を聞くのは初めてですね。本日はよろしくお願いします。改めてですが、データアナリストの仕事内容を教えてください。
桑田:広告制作部では、企業の採用課題解決を目的に『バイトル』などに掲載する求人の作成や企画提案、運用改善を行っています。その効果を最大限に高めるため、私たちデータアナリストは、サイトデータを集計・分析し、クライアントに最適な掲載プランや広告運用・改善案を提案しています。
扱うデータはサイト内のPV(ページビュー)数や応募数、広告枠数などです。大手企業や派遣会社は、全国にたくさんの求人を出しているため、どのエリアにどれだけの広告枠数を、どのようなプランで掲載するか、予算に合わせて決める必要があります。全国に4000〜5000枠掲載している企業もあり、時期による効果の変動や、エリアごとの求職者傾向などを踏まえて、最も費用対効果の高い運用方法を考えています。
馬場:5000枠…。何から手を付けていいか分からなくなりそうです。
桑田:ひとりで全てを行うわけではありません。大手企業の場合、チームを組む場合がほとんどです。その企業を担当している営業さん、広告制作ディレクターと一緒に、長期にわたって効果改善を行っています。営業さんはクライアントとの渉外を、ディレクターは求人広告の企画・作成を含めたクリエイティブ全般を、そして私たちデータアナリストは分析を。チームで応募数、採用数といった目標を追いかけ、企業の採用課題解決に取り組んでいます。
データ分析においては、営業さんが商談で得た現場の声や、ディレクターが考える仮説をヒントにしつつ、みんなで相談し合いながら試行錯誤しています。
馬場:僕はディレクターという立場ですが、逆に桑田さんからアドバイスを貰うことが多いですね。いつもありがとうございます。
桑田:いえいえ、どういたしまして(笑)馬場君が言ってくれたように、データアナリスト側から広告枠数やプラン、採用ターゲットなどの提案を行うこともあります。私たちが扱うデータはサイトパワーに関わる部分なので、特定の人しか見られません。そのため、営業さんやディレクターとは異なる視点で提案できることが強みですね。
仮説→分析→施策→検証を繰り返す。考え方の基礎を学んだ新人時代
馬場:どんな業務も要領よくこなす印象の桑田さんですが、制作に異動するまでデータ分析の経験はなかったと聞きました。
桑田:データ分析は未経験、ディップには営業として2013年に新卒入社しました。広告制作部に異動後も初めは求人原稿の作成をやっていたので、まずはデータに慣れることから始めました。
馬場:仕事を覚えていくまでの流れを詳しく聞かせてください。
桑田:初めて担当した企業は大手の派遣会社様です。まずは日々の掲載効果の進捗を管理できる体制を作るため、進捗表の作成と更新を行いました。進捗表とは、企業ごとにPV数や応募数を集計して、目標に対する進捗を確認する表です。当時の掲載数は約600枠。数が多いため、効果を一目で分かるようデータを整えて状況を把握し、営業さんと同じ目線で話せるよう毎日進捗表を更新していました。
馬場:効果の変化に気が付きやすく、早い段階で効果不良への対策が打てますね。
桑田:効果不良の原因を特定するためには仮説を立てる必要があります。その上でデータを分析して、新たな施策の内容を考え、施策実施後は結果を確かめるため、再び効果検証を行い、さらに次の仮説を立てる。これを繰り返していくことで徐々に効果改善に向かっていきます。そうして少しずつデータアナリストとしてのスキルが身についていきました。
しかし、初めは仮説の立て方、分析の手法、施策のバリエーションなど、分からないことばかりで、何かあるたび同じデータアナリストの先輩に相談していました。
馬場:具体的にはどのように仮説から検証のサイクルを回していったのでしょうか。
桑田:先ほどお話した600枠を掲載していた企業では、実際に扱っている求人数は当時約2000件にのぼり、得られるデータや考えられる仮説は無数にありました。なので優先順位をつけるため、目標だった誘致数(クライアントが求めるスキルを満たす求職者からの応募)アップという指標に立ち返り、掲載する求人や、掲載エリア、プランなどを見直していきました。
初めに立てた仮説は“応募数と誘致数は比例しない”です。実際に市区町村ごとのデータを調べると、応募数は低くとも1件当たりの誘致数が高いエリアがありました。
馬場:全体の応募数よりターゲットとしている求職者からの応募数を重要視したわけですね。
桑田:ですが、誘致率が100%でも応募数が1件では意味がありません。そのため、サイト内の掲載順位が高くなる上位プランと下位プランで切り分けて再分析。獲得したい応募数と誘致数のバランスを考慮しながら、最も効率的なエリアに求人を振り分けていきました。
この施策は最初こそ思うように効果が伸びなかったものの、その後も仮説立てから検証までを繰り返し、徐々に改善に向かっていきました。最終的には施策前と比較して誘致数は約1.5倍、追加受注も頂くことができました。
馬場:継続的に仮説から施策のサイクルを考え続けたことで生まれた成果ですね。
桑田:たとえ1枠の掲載であろうと、効果が変動する原因は「競合他社の有無」「エリア・職種の求人動向」「サイトに訪れるユーザー数」など、無数にあります。出発点である仮説を考えるために大切なのは、経験と日々の情報収集。他の企業はどういう状況なのか、過去に似た事例はないか、対象企業・職種に関連する報道はなかったかなど、様々な情報を結び付けて、仮説を考えます。
馬場:他に意識していたことはありますか?
桑田:営業さんとの会話も同じくらい大切だと考えています。クライアントと直接会話している立場からの意見は、一番新鮮な情報だと言えます。現場の温度感とズレが生じないよう、少なくとも週1回は対面または電話でミーティングをして、状況報告をしています。たとえば、データ上は大阪市内に応募の増える見込みがあっても、クライアントに聞いてみたら大阪市内の案件の人員は充足しているので今の応募数で充分だったという話はよくあります。定期的に情報共有することで、目指すべき目標をアップデートしています。
馬場:データアナリストはひたすら数字と向き合う印象でしたが、桑田さんは先輩や営業さんとよく話している印象です。
桑田:思い返せば、まわりに頼りっぱなしだったかもしれません。それでも親身に答えてくれた先輩たちには感謝ですね。私自身もただ助けを求めるのではなく、自分なりの考えをひとつ以上は持っていくことだけは忘れないようにしました。こうしてトライ&エラーを繰り返して、徐々にひとりで任せてもらえるようになっていきました。
クライアントとの会話で生まれる責任感が、背中を押してくれる
馬場:広告制作部のデータアナリストの特徴は何だと思いますか?
桑田:自分が関わった影響を強く実感できることだと思います。行った施策の効果がデータとして明確に表れることはもちろんですが、クライアントの声を直接聞けることも自分の介在価値の実感につながっています。
馬場:直接声を聞けるメリットはどこにありますか。
桑田:要望や困っていることをヒアリングできることで、まず情報の齟齬がなくなります。加えて、タイムラグもなくなるため迅速な対応が可能になります。また、クライアントにとってもデータ担当がついているということが信頼につながるようで、新しいニーズを拾い上げられることもあります。
馬場:それはアナリスト冥利に尽きますね。
桑田:とある企業では毎月、営業さんと一緒にクライアント訪問を行っていました。私がまとめた1ヵ月間の掲載効果データをクライアントに直接説明して、次回の改善案をお伝えする。クライアント、営業さん、そして私の三者で今後の方向性を話し合うこともあり、全員が当事者として動いている一体感が生まれていました。
馬場:理想の関係性だと思います。
桑田:営業さんだけでの訪問は、金額やプランニングの話がメインになります。ですが、データアナリストが入ることで原稿面、運用面の相談もできるようになり、クライアントとの商談の幅が広がったのではないかと思います。「桑田さんのおかげで効果が上がりました」と名指しで感謝の言葉を頂いた時は、とても嬉しかったです。データ上での効果だけでなく、クライアントとの信頼関係という意味でも効果が実感できることは、責任感が増すと同時に私の背中を押してくれています。
「なぜ?」を考える視点が大事
馬場:最後に、どのような人が広告制作部のデータアナリストに向いていると思いますか?
桑田:ひとつは“分からないことを放っておけない人”だと思います。クリエイティブ統括部のデータアナリストは東名阪に計9名在籍しています。それぞれの拠点で出したデータの共有などを行っていますが、知らなかったことや、出したことがないデータには興味津々で、みんな納得するまで質問していますね。
馬場:データアナリストの役割のひとつは「根拠を見つけ、提案のロジックをより強固にすること」ですからね。
桑田:少なくとも私は結果と理由はセットだと考えています。業務に置き換えると、効果が良いときも悪い時も、必ず要因があります。効果不良の原因分析や改善後の効果検証だけではなく、効果が良いときも「なぜこの結果、効果がでているのか?」を考え続けていく視点が大事ですね。
馬場:他にはありますか?
桑田:あとは私が大切にしていることでもありますが、コミュニケーションですかね。先ほどお話したように、営業さんやクライアントと話す機会は、きっと想像以上に多いと思います。私たちのミッションはデータを出すことではなく、データを根拠にクライアントの採用課題を解決することです。自分の分析をクライアントに直接説明して、納得してもらい、効果が出るまで責任を持つ。だからこそ、感謝の言葉も人一倍嬉しいんだと思います。そこに喜びを感じてくれる人と一緒に働きたいと思っています。