
ディップでの実務経験が進化させたベイズ統計とデータサイエンスの新境地
こんにちは、ディップ株式会社でデータサイエンティストを務めている呉(ゴ)です。1月に開催された計量・数理政治学会(JSQPS)2025年冬季大会でポスター発表を行いました。その際に、ある教授から「ベイズ統計を限界まで使いこなしているな」とのお言葉をいただきました。嬉しいことに、この評価は大学院や大学での教育だけでなく、ディップでの実務経験が大いに寄与していると実感しています。本記事では、私の実務経験がどのように私のベイズ統計のスキルを磨き、政治学におけるベイズ機械学習モデルの構築能力を育てたかを共有します。
データサイエンティストの業務で磨かれる実践的なスキル
ディップでは、主に『バイトル』などの求人メディアや営業活動に関するデータ分析や予測モデル構築を担当しています。これらのプロジェクトは単なる技術的課題にとどまらず、現実世界の複雑な問題に取り組むものです。例えば、求職者の行動予測や営業プロセスの進捗フェーズの予測といった課題では、多様なデータとドメイン知識を統合する必要があります。この過程で培われたスキルこそが、私がJSQPSで発表した階層ベイズモデルや状態空間モデルを構築する力の源泉です。
実際、階層ベイズモデルやノンパラメトリックベイズモデルといった高度な手法を駆使しなければ、データから抽出できる知見をフルで活用できません。単純なモデルでは捉えきれない複雑なデータ構造や異質性を表現するために、ノンパラメトリックベイズが重要な役割を果たします。例えば、営業活動の進捗フェーズを予測する順序ロジットモデルを構築する際、業種や顧客との関係性など、さまざまな要因を柔軟に考慮する必要がありました。このとき、ノンパラメトリックベイズを用いることで、過学習を防ぎつつ複雑な要因をモデルに組み込むことが可能でした。
実務経験が研究活動に与える影響
JSQPSでの発表では、冷戦期の国際社会におけるイデオロギー変化を分析する新たなベイズ機械学習モデルを提案しました(論文の草稿:階層棒折り過程ベイズ機械学習モデルで冷戦史を推定してみた)。このモデルでは、国連総会での各国の投票行動をデータとして用い、次元数とそれぞれの次元の重要度を年ごとに自動推定する階層的な棒折り過程モデルを採用しました。複雑なモデル構造を実現するには、ディップでの実務で培った「問題の本質を捉える力」や「現実に即したデータ分析のノウハウ」が不可欠でした。
例えば、営業データを活用したモデル構築では、単純なモデルでは捉えきれないビジネスのダイナミクスを考慮する必要があります。この経験を通じて、「複雑な現象をシンプルに解釈できる構造をモデル内に見出す」重要性を学びました。このスキルは、学術的な研究においても、複雑な政治的・社会的現象をモデル化する際に非常に役立ちます。
学会で得た知見を業務に活かす
今回の学会で、私の研究について「昨年夏の研究の発展版ですね」とコメントをいただきました。これにより、継続的な研究の重要性を再認識するとともに、自分の研究が他者にどのように評価されているのかを知る貴重な機会となりました。また、アメリカの著名なジャーナルであるへの投稿を勧めていただき、今後の研究活動へのモチベーションも高まりました。さらに、学会では因果推論を用いた最新の研究や、LLM(大規模言語モデル)を活用した因果推論手法についての議論も刺激的でした。これらの知見は、今後のディップでの業務や新しいプロジェクトのアイデアに応用できる可能性を秘めています。
アカデミアとビジネスの両立
ディップでの実務経験は、ベイズ統計や機械学習を駆使する能力を育むだけでなく、学術的な研究にも直接的に貢献しています。もし、データサイエンティストとしてのキャリアを考えている方や、アカデミアとビジネスの両立を目指している方がいれば、ディップでの経験がその可能性を広げる一助になるかもしれません。引き続き、ディップでの業務と学術研究を通じて、新たな知見を追求し、社会に貢献できるよう努力してまいります。これからもどうぞよろしくお願いいたします。