
PHPから広がる技術探求の道〜レガシーとモダンが交わる技術現場の挑戦
約30年にわたって使われ続けているプログラミング言語、PHP。その魅力は、いま再発見されつつあります。約1,000万人以上のユーザー数を誇る『バイトル』や『はたらこねっと』の裏側で、PHPを軸に技術革新を進める渡邉泰曉さんにお話を伺いました。
エンジニアとしての原点
田中:渡邉さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか?
渡邉:情報系の大学で学んだことがきっかけで、専門性を活かせるエンジニアという職種に興味を持ちました。特に、自分が書いたコードが「動く」瞬間の面白さに魅力を感じ、この道に進むことを決めました。最初のキャリアは受託開発で、そこで主にPHPを扱うことになります。当時のPHPはまさに全盛期で、フレームワークのLaravelを使ってBtoB、BtoC問わず様々なマッチングシステム開発に携わりました。新規開発から保守まで幅広く経験し、PHPの面白さと可能性を深く知ることができました。
田中:その後、ディップへ転職されたとのことですが、どのような背景があったのでしょうか?
渡邉:受託開発ではシステムを納品して仕事が終わることが多く、また「この機能は本当にユーザーに必要なのか?」と疑問を抱きながら機能開発に携わることもありました。次第に歯がゆさを感じることが増え、もっと腰を据えて一つのサービスと向き合い、大規模なシステム開発に挑戦したいという思いが強くなったんです。そんな時にディップと出会い、『バイトル』という巨大なサービスにエンジニアとして関わることで、大きなインパクトを与えられるのではないかと考え、入社を決めました。
大規模サービスがもたらす「面白さ」と「挑戦」
田中:ディップに入社されて、様々なプロダクト開発に携わる中で、どのような印象を受けましたか?
渡邉:まず感じたのは、システムの規模の大きさです。ディップのサービスの裏側には、かなりの数の関連システムが動いています。それらを全て理解し、把握していくのはまさに骨の折れる作業で、途方もない壮大さを感じました。でも複雑なシステムを解き明かし、その全体像を把握していく過程は、エンジニアとしての知的好奇心を強く刺激されました。
田中:その中で、特に印象に残っているプロジェクトはありますか?
渡邉:入社直後から管理画面のリファクタリングや認証機能のマイクロサービス化など、システムのリアーキテクチャリングをメインで担当していました。そんな中で、テストコードの拡充やCI/CDの整備、自動テストの導入など、開発プロセス全体のリファクタリングに取り組んだ経験は印象深いですね。最初は困難な部分も多かったのですが、仕組みが回り始め、認知負荷が下がっていく中で、開発効率が向上していくのを実感できた時は大きな達成感がありました。
PHPを起点に広がる技術領域ーモダンとレガシーの融合
田中:渡邉さんのキャリアにおいて、そしてディップでの業務を通じて、今回のテーマであるPHPはどのような影響を与えているのでしょうか?
渡邉:私のキャリアにとってPHPは今の私の土台でありながらも、他の領域へと知識や経験を広げていく上での重要な起点となっていると感じます。例えば、クライアント企業や社内の営業が使う『バイトル』の管理画面のリファクタリングでは、バックエンドのPHPとフロントエンドのVue.js(TypeScript)を連携させる役割を担いました。PHPで書かれた画面をVue.jsに移行する中で、CI/CDの整備や、見た目の自動テストなど、フロントエンド寄りの仕事にも深く関わりました。
田中:PHPを使いながらも、新しい技術を取り入れているのですね。その中で、PHPのどのような点に魅力を感じましたか?
渡邉:他の言語に触れる中で改めて感じたのは、PHPの基本的な部分の完成度の高さです。例えばJavaScriptなどの言語と比較した時に、「PHPにはあったけどJavaScriptにはないな」と感じる部分もあり、長年使われ続けている理由がよく分かりました。ベストプラクティスが確立され、情報量も圧倒的に多く、OSSコミュニティも活発で、安心感があります。
田中:歴史の長いPHPだからこその強みですね。そのPHPを起点として、新しい言語や技術を学ぶことにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
渡邉:PHPで得た知見や考え方は、他の言語や領域にも応用できます。モダンな技術を取り入れつつ、これまでのPHPの資産も活かしていく。このバランスが、大規模サービスを扱う上で非常に重要だと考えています。大切なのは何の技術を使うかではなく、ユーザーやクライアントに価値を届けるために、技術をどう使うかですからね。
田中:なるほど、PHPでの経験が新しい技術への挑戦を後押ししているのですね。
渡邉:はい、そうですね。それに今回のPHP Conference Japan 2025への登壇だったり、技術記事を書いたりといった活動も、PHPが私にとって「外と繋がる言語」だったからこそ、自然と始まったものでした。
未来を築く挑戦ー開発者体験の向上と組織の成長
田中:今回、PHP Conference Japan 2025に登壇されたとのことですが、その背景にはどのような思いがありますか?
渡邉:PHPは、もはや完成された言語だと感じています。だからこそ、その本質や内部の仕組みを深く理解することは、エンジニアとしての成長に繋がると考えています。今回の登壇では、Webブラウザの簡易実装をPHPで再現するという内容で、PHPを普段から書く人が、Webブラウザの仕組みをより深く理解する価値を伝えたいという思いがあります。私自身がPHPを起点に、様々な技術に挑戦してきた経験が、今回の登壇にも繋がっています(発表資料はこちら)。
田中:まさに渡邉さん自身のキャリアそのものですね。そんな渡邉さんが今後、実現していきたいことについて教えてください。
渡邉:目標は、ディップのエンジニア組織を「業界を代表する技術レベルの高い集団」にすることです。そのためには、まず開発者体験の向上に貢献していきたいと考えています。
田中:開発者体験の向上、具体的にはどのような取り組みを考えていますか?
渡邉:例えば、新しいプロダクトを素早くローンチできたり、今までよりも少ない人数で改善を高速で回していけるような、強固な開発基盤を仕組みから自分の手で構築していきたいです。
田中:では最後に、ディップで働く未来のエンジニアに向けてメッセージをお願いします。
渡邉:ディップには、数えきれないほどの「課題」があります。しかし、それは同時に、エンジニアとして腕を磨く最高の「練習場」でもあります。目の前の課題解決に意欲があり、自ら試行錯誤しながら解決策を探求できる方にとっては、非常に面白い環境だと断言できます。
田中:課題を「練習場」と捉える、面白い視点ですね。
渡邉:はい、「試せる」環境があるのがディップの魅力です。様々な技術やアイデアを試してみて、たとえそれが完璧でなくても、積極的に提案し実行できる。そんな環境で、私たちと共にディップのエンジニア組織の未来を築いていきたいです。