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~なぜディップはコロナ禍からV字回復できたのか?ユーザーからの共感を生む、パーパスの解釈と実践とは~ マーケティング統括部長 堀が『アドタイ・デイズ2022 Autumn』に登壇!

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堀 一臣
商品開発本部 マーケティング統括部 統括部長 ▼詳細

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高橋 正憲
商品開発本部 クリエイティブ統括部 制作戦略推進部 制作企画課 ▼詳細

2021年11月より開始したディップの新プロモーション「ディップ・インセンティブ・プロジェクト」。コロナ禍で各社の経営環境が厳しい中、ディップは2021年12月~2022年2月クオーターで前年比43.8%、2022年3月~5月クオーターで前年比40.9%の売上アップに成功し、『バイトル』『バイトルNEXT』『はたらこねっと』の応募数は過去最大を記録。売上・応募増にもつながったこのキャンペーンはいかにして生まれ、どのような戦略のもとで実行されたのか。2021年10月にディップへと入社し、マーケティング統括部長を務める堀 一臣が、株式会社宣伝会議様主催の「アドタイ・デイズ2022 Autumn」にて講演した内容を特別に公開します!

売上・応募ともに改善をもたらした「ディップ・インセンティブ・プロジェクト」とは?

ディップでは「ディップ・インセンティブ・プロジェクト」と題し、2021年11月より新プロモーションを展開してきました。具体的にはDAIGOさん扮するディップの営業が乃木坂46さんが働くお店に対し「店長、時給上げてください」とお願いするCMが印象的な、一連のプロモーションです(CM映像)。働く人の待遇改善を目的に、ディップが企業に対して時給アップを働きかけることで、ユーザーはディップのサイトで高時給のお仕事を見つけることができる。企業に対してはよりたくさんの応募を提供したり、やる気の高いユーザーからの応募を提供することで、企業のサービスの質向上や人員の定着率の向上にもつなげることができる。それにより社会全体が抱える人手不足の課題解決も後押しする、まさに「三方よし」を目指した施策です。

2021年の11月より新プロモーションを開始しましたが、2021年12月~2022年2月のクオーターで前年比43.8%2022年3月~5月のクオーターで前年比40.9%「売上」を伸ばすことができました。

また、『バイトル』などの人材サービスにおいては売上とともにユーザーからの「応募」を獲得することが重要になりますが、「応募」に関しても直近で「過去最大の応募数」を獲得できています。さらにユーザーからの評価に関しては、学生層のアルバイト求人メディアの第一想起で「No.1」を獲得しています(出所:ブランド認知度調査 2022年4月実施)。「学生のバイト探しといえばバイトル」と、たくさんの方に思っていただけているということです。

本日は、ディップの売上増、サイトの応募増にもつながったと言えるこれらのプロモーションをどのような戦略をもとに実行したのか、ご説明していきます。

デプスインタビューをもとに見えてきた、若者の価値観とインサイト

戦略の骨子を「WHO(誰に)」「WHAT(何を)」「HOW(どう)」の3つの観点でご説明します。今回のプロモーションのポイントを「WHO:若年層の理解」「WHAT:パーパスの理解と実践」「HOW:実利と信頼とモーメント」とまとめました。1つずつご説明します。

まずは1つ目、ターゲットである「若年層の理解」についてです。マーケティングにおいては「ターゲットを深く理解すること」が重要で、バイトルの主要なユーザーは学生、若年層です。そのため、彼らの課題を理解するために、デプスインタビューを行い、インサイトを深掘りしていきました。

まずは価値観について。2つ特徴があります。1つ目は「信じていない。広告然としたものは見透かされ、嫌われる」ということです。若年層のユーザーはデジタルネイティブで、常に「ながら」でたくさんの情報に接しているため、少しでも広告っぽいと忌避を感じてしまうという感性を持っています。そのため、のちの施策でいかに共感してもらうか、信じてもらうかを工夫することが必要となります。

2つ目は「社会的な取り組みに関心がある」です。社会的な取り組みというとSDGsやダイバーシティといった大きな話をイメージしがちですが、それだけではなくたとえば身近な話で言えば「電車で人に席を譲ることができる」「人の話をやさしく聞いてあげる」「みんなのごはんを取り分けてあげる」など、「周りへの配慮ができる余裕のある人が憧れの存在である」というとても成熟した価値観を持っています。ゆえに社会課題の解決とユーザーから選ばれることは同じ方向にあると考えています。

さらに求人サイトに関するバリアでいうと、「想定とギャップがあり、残念な経験をしたことがある。(とくに有期雇用の方々は)決して強い立場ではない」。もう1つは「求人サイトに書いてあることはほんと?と疑ってしまう」つまり「企業からお金をもらっているから、都合のいいことだけ書いてあるんじゃないの?」と信じてもらえていない、というものがありました。

もう1つ、「バイトを探す基準」についても学生にアンケートを取りました。その結果、バイト選びの基準でもっとも高いのは「時給の高さ」でした。一方で、時給に関するインサイトでは「時給は上げてほしいけど、直接は言いづらい」「時給は簡単には上がらないもの」などが見えてきました。つまり、時給に対しての「モチベーションとバリアがある」という状態で、ここに価値提供の機会があるといえます。

私たちディップのマーケティングチームは自信が持てるまでインタビューをします。誰よりもユーザーを理解していることが戦略上の判断を可能にしたり、社内・社外を巻き込みリーダーシップを発揮するために重要な指針となるからです。

「バイトルじゃなきゃいけない」を生み出すヒントは、ディップのパーパスにあった

マーケティングの「WHAT(何を)」の部分、つまり「提供価値」を考える上で、課題としてあったのが「求人サイトの価値が同質化している」ことです。求人サイトにおいて、掲載されている求人内容は他社サイトにも掲載されているものも多く、私たちのような求人ポータルサイトが独自の価値を出すのは非常に難易度が高いと言えます。そのため現状では「バイト探しは〇〇」というCMをパワーをかけて行う「体力勝負の市場」になっています。実際に、バイトルユーザーの87%が他の求人サービスも併用しており、現状では「バイトルだけ使っている人はほとんどいない」状況でした。裏を返すと「バイトルじゃなきゃイヤだ」「バイトルを最初に使おう」というユーザーをいかに増やしていけるかが、提供価値を作る上での課題でした。

一方で、市場の機会についても考えました。「賃上げ」の後押しです。政府もずっと人手不足を解消するために賃金アップ、とくに有期雇用における最低賃金のアップを推し進めていました。

これらを受けて冨田社長から頂いたアイデアが「企業に時給アップを働きかけて、ユーザーの待遇改善を提供価値にできないか」というものです。

ただ、これを実行に移すのは並大抵のことではありません。コロナ禍で苦しいお客さまに対して「時給アップしましょう」といった提案が本当にできるのか?企業にメリットはあるのか?といった懸念を営業チームが抱くことはもちろん想定できました。実際に、チーム内でも「これは本当に実行できるのか?」という意見が出てきたのも事実です。

そこで大きな役割を果たしたのがディップのフィロソフィーです。一般的にパーパス、企業の存在意義と呼ばれるものに近いものです。

ディップの企業理念は「私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」、ブランドステートメントは「One to One Satisfaction」です。

我々は社会を改善する存在である。「ユーザーファースト」を大切にし、ユーザーが困っていることを解決すればその結果としてお客さまに喜んでいただける。これらがただの言葉として掲げられているわけではなく、創業以来社員ひとりひとりに根付いているのがディップの特徴です。こういったプロジェクトを進める際にも、「これはフィロソフィーに沿っているか?」「フィロソフィーに照らし合わせるとどう判断するべきか?」といった会話がなされます。その結果、「ハードルは高いが、ぜひ実行に移すべき」「ユーザーファーストを実現するために、全社一丸となってこのプロモーションを推し進めよう」という経営判断のもとに、全社がまとまり実行することができました。

差別化が難しい人材サービス・求人サイトにおいて、「パーパスを拠り所」にすることで、ディップ独自の提供価値を生み出すことができたということです。

施策のポイントは「実利」「信頼」「モーメント」

最後は「HOW(どうやって)」の部分です。「企業に時給アップを働きかけて、ユーザーの待遇改善を行う」というWhatをマーケティング施策に落とし込むにあたり、「実利」「信頼」「モーメント」の3つを重視しました。

1つ目の「実利」ですが、先ほどお話した「提供価値」を中心に置きつつも、ユーザーとのタッチポイントにおいてはより分かりやすい「実利」の部分も必要だと考えました。今回のプロモーションでは「時給が上がる」「いい求人がたくさんある」これらをいかに平たい言葉で、ユーザーにとって欲しい価値として伝えられるかを重要視しました。エンドベネフィットとプロダクトベネフィットの両方があって、はじめてユーザーの行動を後押しすることができます。

具体的には「時給アップの案件が20万件以上」「平均時給178円アップ」「3人に1人は時給がアップ」といったファクトです。ユーザーにとって具体的なメリットになる数値をリサーチし、ファクトを見せることで、実利を生々しく実感していただく。これらをCM、デジタル広告、OOH、PRなどの各タッチポイントで展開していきました。

もう1つ、SNSでのキャンペーンも実施しました。「バイトルで時給がアップしてよかった具体的なエピソードを教えてもらう」というものです。「食べたかったケーキをご褒美に買っちゃった」「子どもたちに本を買ってあげられた」など、ユーザーの生の声、エピソードを集めることで、他のユーザーの方にも「私にもこんないいことあるかも」と実感していただくことができました。ここでもユーザーに考える負担を強いない、わかりやすく『便益によって変化した良い姿をみせること』を意識しました。

2つ目の「信頼」についてです。「広告や求人サイトは信じられない」「本当に時給アップできるの?」という疑念に対し、「自分も時給アップできそう」「バイトルはユーザー側だね」と共感していただくことを狙いました。

まず重要視したのがYouTubeです。テレビではリーチしきれない若者に対してYouTubeは媒体としても有効ですし、YouTuberは忖度なくホンネで語り掛ける存在として共感してもらえます。そのため、トップYouTuberであるはじめしゃちょーさん、ヒカルさんなどとタイアップし、「ディップ・インセンティブ・プロジェクト」をPRしました。若者に対して身近なYouTuberの方から寄り添うようなメッセージを発信したことと、デジタル上だけでなくリアルな記者会見、ユーザー向けのオフラインのイベントを同時に行うことによって、PRの露出度を最大化することに成功しました。インフルエンサーの方に熱量をもってお話しいただくために、事前のオリエンテーションを丁寧にすることを心がけました。

もう1つ、「信頼」を上げるために、今回の時給アップキャンペーンとは異なりますが、2022年の7月からコンテンツマーケティングの1つとして「僕らの凸げき日記」というYouTubeチャンネルを開設しました。「ユーザー目線で忖度なしに仕事のリアルを伝える」をコンセプトに、ユーザーと等身大のキャストが本当に気になる不安や疑問をぶつけにいくチャンネルを運営しています。

3つ目が「モーメント」です。タッチポイント(媒体)が多様化し情報量が爆発的に増加しているいま、画一的なコミュニケーションや、同じクリエイティブ素材を使ったコミュニケーションではユーザーにとって自分ごと化されづらいと考え、「あなたのために伝えているよ」と感じていただくために、媒体やモーメントに合わせたマルチクリエイティブ戦略をとっています。

例えば交通広告では、「時給が上がる」が視覚的に伝わるよう、階段やエスカレーターの傾斜を利用したものを展開しました。

デジタルの取り組みでは、「バイトサイクル」と名付けたバイト探しのモーメントを3つ考えました。まず、新しくバイトを始める「バイトはじめ」、そしてバイトを実際に選んでいる「バイトえらび」、最後に実際に就業してからの「バイト就業中」です。それぞれのモーメントにおいて、バイトを探す気持ちは微妙に異なります。そのため、それぞれのタイミングに合わせた語り掛けをすることによって、効率を高めることを狙いました。

具体的にはTwitterのモーメント配信にて、3つのモーメントを象徴するようなコメントをされている方に合わせたクリエイティブを出し分ける広告を掲載しました。通常の配信に比べて、CTRが15%効率化、エンゲージメントは40%向上しています。

また、TikTokでも縦型の動画にしたり、TikTokerさんを使ってTikTokと親和性の高いクリエイティブを掲載することにより、効果を上げることに成功しました。

最後に、交通広告ではエリアごとに特化したコミュニケーションを展開しました。ユーザーにとって、求人はまず「エリアで選ぶ」特性があり、さらに地方・郊外エリアでは広告コストもおさえられることから、ディップではエリアマーケティングにも力を入れていますが、その際も単に同じクリエイティブを出すのではなく、そのエリアのみなさんに語り掛けることによって「このエリアで仕事を探すならバイトルがいいんだな」ということを実感いただく施策を実施しました。

以上が、今回ディップが実施したプロモーションの戦略の要諦です。マーケティングにおいては「WHO」「WHAT」「HOW」それぞれにおいてきちんと丁寧に深掘りをすることと、それぞれを一貫させ、すべてをバランスよくオーケストレーションすることが重要と考えています。どこかがひとつでも欠けてしまうと連動せずにワークしない経験をしてきたからこそ、そう考えています。

ディップでは、今後もフィロソフィーを大切にしながら、ユーザー、クライアントへの価値向上、ひいては社会の課題を解決する(=新しい市場を創造する)マーケティング活動に取り組んでいきます。ご清聴ありがとうございました。

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堀 一臣

商品開発本部 マーケティング統括部 統括部長 大手化粧品会社のブランドマネージャーとして、戦略立案・商品開発・プロモーション・営業販促・P/L管理などを包括的にマネジメント。その後大手ゲームメディア企業にてマーケティング戦略部の創設、全社のマーケティング立案・プロモーション・広報PR・新規事業などを管掌。2021年10月、マーケティング統括部長としてディップに入社。

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高橋 正憲

商品開発本部 クリエイティブ統括部 制作戦略推進部 制作企画課 3代目dip people編集長。2008年に新卒で入社し、進行管理、広告審査室、制作ディレクター、管理職などを経験。2020年4月より現職。